（日本人）　　　　橘玲　　　　　　　幻冬舎

タイトルは（かっこにっぽんじん）と読むらしい。タイトルからして内容は当然「日本人論」だと思って手にとったが、確かに日本人論は展開されてはいるものの全体的にはもう少し広い視野からみた人間論、社会論の趣きが強く（その意味ではこのタイトルはちょっと失敗だという気もするが）、よい意味で予想外に面白い一冊だ。

著者の経済小説家が本業という肩書、又、元宝島社編集員という経歴が頷けるように、本書の内容は、一般の文明論、社会評論や研究書などにありがちな退屈さのない「読ませる」評論になっている。

本書に述べられている著者の社会や歴史の見方は、その広範囲（と思われる）さまざまな文献などの渉猟から得られた知識を、著者なりに再構成したものであり、ある意味では必ずしも独創的な社会論ではないということになるかもしれないが、そういった広範囲な知識を巧みに積み上げ再構成した結果であるという「根拠」がしっかりしているだけに信頼できそうにも思うし、そのようにして組み立てられた著者自身の物の考え方は、極めて「独創的」にも思える。

本書の中で著者がもっとも強調したかったことは「日本人というのは、昔から世界的にみてももっとも世俗的な民族である」という点だろう。このテーゼは本書で知ってあらためて考えてみると確かに日本人の本質をもっともよく言い表しているようにも思う。｢世俗的｣とは要するに「自分に得ならば」ということが全ての判断の基準になるということだ。戦争よりも平和の方が得だと思うから日本人は平和主義的である―――隣近所とややこしい付き合いをするよりは、自分だけで篭っていた方が楽だから、と考えるから都会では単身世帯が増える−−−等々だが、大人数で居酒屋に行くよりは、自分の部屋でテレビでも見ながら一人で飲んだ方がよい−−−という若者が増えている現状を考えるとこの「日本人は最世俗的民族」という分析は当たっているような気がしないではない。

もう一つ、これも的を射ているのではと思ったのは、「ローカルルールに慣れきった日本人はグローバルルールで動いていることがらもローカルルール基準で判断しようとするから軋轢を起こす」という見解だ。例えば「民主主義」はグローバルルールだが、日本伝統のローカルルールは、退出不可能なムラ（かつての日本の農村社会）でのルールである「全会一致」であり、このルールの違いが日本の民主主義を不完全なものにしている−−−とも考えられる。

研究者、学者ではないということが著者にとっての強味になっているようで、断定調の語り口を嫌う人は多いかもしれないが、断定調でスパスパ物を言うところが、小気味良いと思う人には本書はお勧めだ。