イギリス帝国の歴史　　　　秋田茂　　　　　　中央公論新社　　　　

いつからをイギリス帝国と呼んでよいのだろうか。

本書を読むとそれは18世紀にはじまり、ある意味では現在まで続いているということができるようだ。

一国の歴史といえば、どうしてもローカルな歴史になりがちだが、本書で著者は「イギリス帝国」をローカルな一帝国という視点からではなく、グローバルな視点からみた世界史的な帝国として描こうと努力している。

このような歴史分析の方法は、「グローバルヒストリー」として近年盛んに行なわれているのだとか。たしかにスケールの大きな近現代史といった趣がなくはない。

本書は、基本的なところではイギリス帝国から見た植民地という支配→被支配関係がおかれてはいるが、逆に植民地、あるいはその植民地周辺国から見たイギリス帝国という視点を多く取り入れておりそこが従来の帝国史にはない深みと広がりを与えている。

特にインドにおいて、英国の植民地化によって得たプラス面（勿論、相対的にみればマイナス面の方がはるかに大きいにせよ）、例えば近世的な意味での社会、経済の豊かさ、グローバル世界の重要プレーヤーとしての台頭といった面に焦点を当てる、あるいは、帝国に留まった砂糖植民地と、帝国から独立した煙草植民地の違いはどこにあったのかといった分析、といった点は今まで知らなかった部分であり、非常に面白いと思った。

歴史に「もしも」は禁物とはいうが、確かに、例えばインドがイギリスの植民地にならなかったとしたら今の世界はどうなっていたか−−−と考えると、今よりよくなっていたといも考えられるし、今よりはるかに悪くなっていたのではという考えも成り立つ。そういう意味でグローバルヒストリー的な視点でもう一度歴史を見直すという作業は、歴史研究にあらたな分野を拓く可能性は大きいのではないかとも思うが−−−。

(12年6月発行)