天才数学者列伝　　　　アミール・アクゼル　　　ソフトバンク　

古代の人々が星空を見上げて天体の動きに法則性を見出した時、この運行の規則を作った絶対者の存在を感じずにはいられなかったことは容易に想像できる。

実際、ピュタゴラス学派の人々は、「神とは数のことである」と信じ数学を宗教として扱っていたが、このような古代ギリシャに始まった数学の神秘性に対する畏敬の思いは、今も数学の法則や定理の中に抽象的哲学的な物を感じ求める我々の数学の真理探究心の原動力になっている。

数学の中にこそ、この世の真理が隠されているという考え方は、多くの人達の「真理を知りたい！」という探究心の動機となってきたし、又、数学の定理や法則の発見という常人のなしえないことを発見した数学者達への我々の強い尊敬の念の基になっている。

こういった数学上の偉業を達成した数学者は、常人のなしえないことを成し遂げ、神に一歩近づいた人であり、まさに天才として尊敬されてきた。しかし、常人の為しえないことを為した人というのは、概して「神にもっとも近い人」というよりは、寧ろあまりにも「人間的な人」が多いというのは実に面白い事実だ。

古代ギリシャから現代までのそういった天才達の列伝である本書は、そのまま数学の歴史であり、又、著者による簡潔・簡明なそれらの発見の説明は、あらためて我々の数学に対する興味、探究心をくすぐってくれる。

本書は｢ギリシャ｣｢東洋｣｢ルネサンス｣「微積分」「革命期のフランス」「カントール以降の新数学」の6つのパートからなり、それぞれの時代背景がいかにして彼等天才数学者を生み出してきたかという文化的、社会的背景なども丹念に描いている。

一昨年、日本でも公開された映画「アレキサンドリア」ではケプラーより1000年も早く地球の公転軌道が楕円であることを発見した紀元3世紀のアレキサンドリアの女性数学者ヒュパティアの生涯を描いていたが、本書ではヒュパティアの残した文書は全て失われているとあった。ということは、あの映画における彼女の偉業は、全くの創作だったということなのだろうか。

若くして決闘によって亡くなったフランス革命期の天才ガロア、無限には階層があると説いたカントールとその師であったクロネッカーの確執といった有名なエピソードなども面白くて大いに楽しめた一冊だ。