137億年の物語　　　クリストファー・ロイド　　　　文芸春秋

ビッグバンからの137億年を24時間に縮めた「24時間時計」でみると我々の祖先であるホモサピエンスの登場した16万年前は、なんと23時59分57秒という深夜まで後3秒という時間であり、一般にいう「歴史」とはその始まりは精々、旧石器時代辺りからのものでしかないが、それは、宇宙史の「24時間時計」でみるならば、深夜まで残り1秒を切ったほんのつい最近とも言ってよいわずか数万年を記述したものに過ぎない。宇宙スケールでみるならばこれは到底「歴史」などといえるスケールのものではないということになってしまう−−−。

本書で記述される歴史とは、宇宙開闢以来の137億年の通史である。本書のような捉えかたは「コロンブスの卵」ではあるが、まったく新しい歴史書として新鮮だ。

宇宙がどのようにして誕生し、この地球上にいつ頃生命が現れたのかあるいは恐竜は何が原因で絶滅したのかといった今までは宇宙物理学だとか、地質学、あるいは古代生物学といった「歴史」とは異なって捉えられてきた事柄も含み、又古代文明以来我々人類が積み重ねてきた壮大な文明、文化史を俯瞰的に捉えた本書は、大型本、しかも総ページ数500ページ余りという電話帳サイズであるにも係わらず元サイエンスライターである著者が、全て一人で書いただけあって全体として非常に読み易く、しかもそれぞれの章に流れる作者の確固とした歴史価値観に対する共感もあって一気に読み通しても疲れない優れた一冊といえる。

全体は4部に別れ計42の章に分かれており、ビッグバン、生命の誕生、恐竜の絶滅、といった宇宙史上、地球史上の重大事件という理科系といわれる分野、生物史的な分野の記述も相当充実しており文系の人間にとっては中々参考になるし、俯瞰的にみながらもかなり細かい点にまで触れた歴史部分は理系の人にとっても興味深いのではないだろうか。

歴史事典として座右に置いて頻繁に参照したい一冊だ。