文明が衰亡するとき　　　　　高坂正堯　　　　　　新潮社　

高坂正堯は96年に61歳で亡くなったが、その極めて広い政治史、文化史の見識に基づいての現実主義的な国際政治論は、当時の日本において右から左までの広い知識層から尊敬されていた。

高坂以降、彼ほどの正統派論客がいないことが、現在の混沌たる衆愚ともいえる政治状況を生んでいる一因かもしれない。（民主党の前原元代表も、高坂の教え子の一人で、高坂に外交官にも、学者にも向かないといわれて政治家になったという話だ）

本書の初版が発行されたのは81年と何と今から30年以上も前だが、古代ローマ、通商国家ヴェネチア、そして第二次大戦後のアメリカを俎上において、繁栄した一つの文明が、果たしてどのような要因によって、そしてどのような過程を経て衰亡していったのかをそれぞれの文明の内部を詳しく見ることによって論評し、日本の将来に対する警告を発するという視点は全く古くないどころか、今の時代においてさえ尚新鮮だ。

著者が本書で一貫して堅持する視点は、これらの3つの文明の衰亡の与える教訓が、当時、高度経済成長に沸く日本が学ぶべきものであるという点だ。

当時、ジャパンアズナンバーワンという言葉に浮かれていたであろう日本社会に、高坂のこの警告は全くと言ってよいほど届かなかったことが、本書で高坂が挙げた3つの文明の衰亡理由が、そのまま今の日本の衰退を招いているのではないかとも思えてくる。座右に於いて何度も読み直して行きたい一冊だ。