リサ ランドール異次元は存在する　　リサ･ランドール　　NHK出版　　　

「一般相対性理論が真である」という命題は絶対的に正しいかどうかとなると神ならぬ身の人間には断言できないところではあるものの量子サイズ以上の宇宙に於いて一般相対性理論に基づく事象が数々発見されており、又、一般相対性理論では説明できないものが見つかっていないという意味では「どうも、一般相対性理論は真であるようだ」「いや、真である」と言ってよいようだ。

しかし、一般性相対性理論では説明しきれない、寧ろ一般相対性理論が破綻してしまう世界がある。それは量子あるいはそれ以下のスケールである極小世界であり、ブラックホールの内部である。すなわち、宇宙創成の瞬間を一般相対性理論だけでは説明しきれないのだ。

一般相対性理論で成り立つこのマクロサイズの宇宙が、それと相性のよくない量子論で説明できるミクロサイズ、あるいは無の中から生まれたことにどうやって整合性をつけたらよいのだろうか―――そこで出てきたのが多次元空間の存在である。

異次元を「あると仮定すると」一般相対性理論のミクロでの適用も、あるいは「重力がなぜこんなにも他の力に比べて弱いのか」も説明がつくから「だから、異次元は存在する！」という論法は、ある意味では循環論法の罠、あるいは詭弁ともとれるのだが、行き詰ってしまった物理学理論の突破口としてこの「異次元の存在」は、今や宇宙論の救世主的存在である。

それでは異次元はなぜ我々には感じられないのだろうか。一つの説は我々の宇宙は3次元プラス時間次元を加えた4次元の他に後、6乃至7の次元があるがその次元は量子サイズより更に小さく折りたたまれているから感じられないとする。

又、本書の著者リサ・ランドールが唱えたことが切欠で広く言われる説では、我々の4次元世界は、巨大な幕（ブレーン）に張り付いた泡のような存在であるから、泡の中に存在する我々には幕である異次元（彼女の説では第5の次元）を感じられないのだという。

本書は、そのリサ・ランドール博士への宇宙飛行士若田光一さんのインタビューを中心に、彼女の異次元理論の概要を描いたもので、彼女の著作のエッセンスを易しく説いてくれるという点で実に面白い一冊だ。

CERNの実験によりグラビトンなど新しい素粒子の発見も期待されており、我々が見ることはできないまでも、近い将来に異次元の存在が「どうも、真らしい」と思えるような時代がくるかもしれないと思うと、益々科学が面白いものに思えてくる。