反ポピュリズム論　　　　　渡辺恒雄　　　　　　新潮社　　　

ポピュリズム政治という名が付けばそのような政治スタイルを「望ましい政治形態」だという人はまずいないだろうが、言い方を変えて「国民の要求にそった政治」だとか「民衆の合意に基づく政治」などとちょっと言い換えれば、そういった政治こそが民主主義的な政治だと大賛成の声に包まれるだろう。

民主主義的という言葉の本義は政治学の世界でもいまだもって確定していないが、51％が賛成すれば49％が反対しても可決されるというのが民主主義の基本である多数決の原理であり、そのような形での「決める政治」が歓迎されないことは今の日本の政治情勢が示していることを考えれば大衆迎合によって90％の賛成を得て好き勝手なことをやるばら撒きポピュリズム政治が民主主義よりも悪いとは必ずしも言い切れないのではないだろうか。

読売新聞のドンといわれる著者、ナベツネによる本書のタイトル「反ポピュリズム」に対して反対する人はいないだろうが、ポピュリズムの尖兵と化しているマスコミの雄、読売新聞のドンである彼にあらたまって「反ポピュリズム」を主張されても「あんたにだけは言われたくない！」と思う人もいるだろう。

但し、そのような先入観を抜きにして言えば、さすがに歴戦の政治記者だけのことはあって、彼の主張は、なるほどごもっともという論旨に貫かれていて納得させられる部分が多い。

本書の主旨は、自民党政権末期以降そして政権交替後の民主党政権が、いかにダメかを散々に批判するものであり、確かにここ10年ほどの政治にうんざりしている身にしてみれば「ナベツネ！何言っているんだ！」といった反論はしにくい、いや思わず、その正論に「ナベツネもいい事いうじゃないか！」と思うこと請け合いだ。

ナベツネが今までに暗躍したいくつかの連立政権作りだとか、政治批評の実績を掲げ「ホラ、オレって結構凄いだろう！」的な自慢話も多いけれど、一昔前の政治部記者による「政界裏話」だと思えば、面白さはあっても不快感は全くない。