「ゼロリスク社会」の罠　　　　佐藤健太郎　　　　光文社新書　　　　

福島の原発事故以来、ヒステリックな放射能恐怖症が蔓延し、あちらでもこちらでも放射線量の検査が行なわれた。世田谷の民家の床下に放射性物質のビンが埋められていたというのでこの近辺が立ち入り禁止となってそのビンの回収作業が行なわれたことがあったが、何とこのビンは半世紀も前からこの民家の床下にあったといい、そこで暮らしていた人は皆、健康に過ごしてきたということが判明し、「あれ、やっぱり騒ぎ過ぎたのでは――？」という反省から少しは放射能恐怖症が和らぐかと思ったが、あれから1年、あのニュースはすっかり忘れられ、未だに｢子供が鼻血を出しているのは放射能の影響ではないか｣と大騒ぎする母親、放射能の影響を怖れる余り沖縄に引っ越した一家、等という笑い話のような話がいくつも起きている。

悪いことに「いや、この程度の放射能ならまず健康に影響はありませんよ」などという発言をする医者や科学者には「原子力ムラの手先」などというレッテルが貼られ、そういうレッテル貼りによるバッシングを怖れる政治家や、マスコミは、バカバカしいとはおもいつつも「リスクがあるなら絶対に避けなければいけない！」というヒステリーに迎合してしまっている。

群盲が像をなでて勝手に怖がっているなら目明きが怖くないよと教えてやればよいものをと思うが、現代では目明きまで一緒になって騒いでいるような感じだ。

著者は、塩や水にしても摂り過ぎれば命の危険もあるように、リスクゼロという物は存在しない、定性的に言えばリスク無し（リスクゼロ）はなく、要はそのリスクの程度を定量的に把握することによってリスクに対処すべきだという極めて真っ当な提起をしている。

只、こういった意見が狂信者ともいえる「ゼロリスク論者」にやはり押しつぶされてしまうというのが、現在の日本社会なのだが−−−。

医薬品メーカーの研究員を経て科学ライターとなったという著者の肩書通り、ここで揚げられている様々な「ゼロリスク理論のバカバカしさ」には十分な裏づけを感じる。

皆に読んでもらいたい1冊だとは思うが「群盲」達は、当然読まないだろうなあ〜。