小松帯刀　　　　　　高村直助　　　　　　吉川弘文館　　

幕末の動乱はペリーの黒船来航からはじまったというのが定説だが、明治維新が1868年だからわずか15年の間に700年続いた武士の世から近代社会への大変革が行なわれたというのだから正に奇蹟の15年間と言ってよいだろう。

明治維新という一大変革がなぜこんなに短期間で成就したのか。様々な時代背景があり、西郷、大久保、あるいは龍馬のような人物の業績も大きかったのだろう。しかし、そんな中であの大政奉還から王政復古への流れこそが、この大変革を大きく動かしたエポックメイキングな出来事であったという解釈は、今や定説といってよいだろう。

慶喜の大政奉還の決断が後一日遅れたら、明治維新は全く変わったものになっていただろう。その慶喜の決断を促した最大の功労者であり、大政奉還から王政復古への道筋をプランニングし、しかも実行指揮者として活躍した第一人者といえば、本書で取り上げている小松帯刀を除いてはいないだろう。

しかし、そんな幕末維新の大功労者でありながら小松の業績、人となりは、今や歴史の中に埋もれ、彼自身も忘れられてしまっている。

本書はそんな小松帯刀の事績を辿る歴史評伝である。

小松帯刀がいたからこそ、日本は諸外国の植民地となることもなく、明治維新という革命を「比較的」平和裏に完遂できたという。又、小松が敷いた、大政奉還から王政復古の道筋が、近代日本社会という枠組みを作る基本プランになったという。

歴史研究としての本書は、物語的要素を極力排除し時系列的に小松帯刀を中心にした幕末の事象を追ったものであることもあって、「面白さ」という要素にはいささか欠けているかもしれないが、逆に、ドキュメント的に、幕末維新の真実を描いており、今後の研究資料としても極めて有意義な一冊といえるだろう。

小松が若くして死ななければ初代の総理大臣は伊藤博文ではなく彼であったかもしれないとも言われているし、アーネスト・サトウをはじめ諸外国の外交官たちも帯刀を「日本第一の人物」と評価していたともいう。

歴史にIFはないというが、小松が生きていたら今の日本も随分変わった物になっていたのではないだろうか。