ドイツ病に学べ　　　　　　熊谷徹　　　　　　　新潮社　

著者はミュンヘン在住のジャーナリスト。EUの主導的立場にあり優等生といわれるドイツだが、本書によればそのドイツが抱えた多くの問題は、まさにドイツ病ともいえる体制根源的な問題であり、又それが第二次大戦敗戦国でありながら戦後、急激な経済成長を遂げた日本が現在抱えている問題と極めて共通した問題なのだと知ってちょっと驚いた。

豊かな福祉社会を築いている国、アメリカが抱える行き過ぎた競争社会が陥っているような社会の荒廃とは縁遠い国、という漠然としたドイツのイメージが本書を読むと大きく修正を迫られる。

日本人がドイツ人に持つ親近感は、たとえば両国民ともに質実剛健、勤倹といった共通した気質を持っていること、又敗戦後、奇跡の経済成長遂げたという歴史共通体験があるという思い入れに基づくものだが、その社会理念、制度は180度といってよいほど違う。

手厚い雇用法制度、福祉、労働組合の強力さといったものは現代日本とドイツでは対照的と言ってよいほど異なるのだが、しかし、これだけ社会理念や制度が異なっている二国が結局現在陥っている持病は、極めて似通ったものだという点は実に興味深い。

今ドイツが抱えている問題とは、第一に「雇用」である。グローバル化が進行する中で、ドイツの失業率は増える一方で、将来的にこれが縮小する目処も全くと言ってよいほどないという。ドイツに比べれば日本の失業率はそれほど高いという訳ではないものの、若者の就職難と既得権勤労者との対立、国内労働コストの上昇に伴う産業の空洞化といった問題は、日本もドイツも同じだ。

更には、女性の職場進出、晩婚化、独身者増大による少子化と高齢化の進展、社会福祉制度へのぶら下がり人口の増加といった問題も、不思議なほど両国は似ている。

本書では、これらのドイツ・日本が直面する問題の指摘に留まり、それらの解決策が示されている訳ではないところがいささか不満ではあるが、確かに今後ドイツがどのようにこれ等の直面する問題に対処し、どのような解決を図っていこうとするかを見守っていくことは、日本が直面している数々の問題の解決策の参考になるであろうことは間違いないといえる。