オレとO・N　　　　　　野村克也　　　　　小学館　　　　　　　

子供の頃、川上はまだ現役として巨人の一塁を守っていたが「テキサスの哲」といわれるようにチョコンとしたテキサスヒットを打つ功打者としてのイメージしかなく、かつて「青バットの大下、赤バットの川上」と並び称された強打者であったと聞いてもピンとこなかった（物干し竿の藤村、も既に現役引退していた）ことを思い出すが、我々の世代でこそ、O・Nあるいは本書の著者野村の名前に懐かしさを感じても、今やその現役時代の記憶があるのは40代以上かもしれず、若い野球ファン（随分と少なくなっているようだが）には本書のタイトルは余り魅力がないかもしれないが、タカさんにとってはタイトルだけで直ぐに飛びついてしまうほどドンピシャリの一冊であった。

恐らく、著者自身が書いたのではなく聞き書き、あるいはゴーストライターによる一冊だと思うが、古い野球ファン、特に王・長嶋ファンにとっては知りたい裏話が載っており一気に読んでしまった。（他の、野村本との重複エピソードが大半ではあるが）

天才長嶋といわれひらめきと天性の素質と運の強さで人気者になっていったとおもわれがちな長嶋が、実は人に隠れたところで大変な努力を続けていたこと、あるいは仲のよい名コンビ、ライバルとして活躍していた王・長嶋が実は二人だけで飲んだことはないことといったちょっといい話と秘話をおりまぜ、さらには現在の野球界への著者特有の「ぼやき」も適度にはさまれている。

川上巨人軍が勝負だけではなく選手の人格育成に努めていたことを著者は高くレスペクトしているようで、その思いが監督となってからの彼の「ヒゲ、茶髪禁止」などにも表れているのかなぁ〜とも思ったり、星野、落合をはじめとする後輩監督評なども面白い。

もっとも、「野村流の人格論」あるいは現役選手を含めた個人名を挙げての批評（批判）は、きわめてまっとうだと思うものの、古い野球ファンとしては随分昔には、色々と人格問題を起こしていた著者のことを思い出すと、ちょっと微妙な気持ちにはなるが。