野中広務回顧録　　　　　御厨貴・牧原出編　　　　岩波書店　　　　

歴代のアメリカ大統領やサッチャー、チャーチル等、海外の政治家による回顧録は大分読んできたが、日本の政治家で自ら回顧録を書いたという大物政治家は皆無と言ってよいのはなぜだろうか。

野中広務を大物政治家というべきかどうかは論の別れるところだし、本書も自著ではなくあくまでも「聞き書き」だけに欧米の政治家の回顧録とは大分価値が違うかもしれないが、オーラルヒストリーという一分野の第一人者としての編者たちのインタビューの巧みさもあって、中々迫力のある回顧録になっていると思う。

野中広務が国政の場に進出したのは57歳の時であり、しかも中央官僚出身などではなく地方政治（京都）出身であるという点も極めて、彼は、異例な遅咲き政治家ということができる。

本書においては、野中は、町長から京都府副知事などを経て、竹下登の「地方政治を知っているものが中央にいなければダメだ」という誘いによって中央政界入りを果たし、自治大臣、官房長官、自民党幹事長といった要職につき、90年代の日本政治の舞台回しに活躍、村山、橋本、小渕、森内閣を裏側で支えたという政治キャリアーをいかんなく詳細に語っている。

この時代、まさに「政治が激動した時代」であって、野中の述懐を読んでいるとどれもこれも懐かしく思い出される。しかも、政治評論家などによる激動史ではなく、その現場における当事者による回顧だけに、迫力は十分だ。（但し、自分の事だけに、どこまで脚色されているか、という問題はあるが）

今、現役で結構エラソーにしている政治家に関する野中の人物月旦は、引退政治家としてのフリーな立場もあって中々面白いし参考になる。