アホの極み　　　　　　池田清彦　　　　　　　　朝日新聞出版　　　

この読書日記でも何冊かこの著者の作品を取り上げてきた。

専門である生物学にかんするエッセーに留まらず、環境問題関連の社会批評、科学論に関する随筆や対談といった多岐にわたる著作の人気は、著者のいわゆる「歯に衣きせぬ」ある意味では八方破れ的な語り口がセンセーショナルな面を持っているからではないだろうか。

本書もまさにタイトル通り、著者特有の鋭い舌鋒（ともいえるし、悪口雑言と言ってもよいかも）で、世の中を切りまくり、まさに「あれも、アホだ！」「これも、アホだ！」と遠慮なしに吠えまくるといった調子のもので、田中真紀子さんの悪口雑言に「鋭い」とか、「頼もしい」といった評価が一定程度あるのと同じなのかもしれない。もっとも、そういった声と同時に、「何を言ってやがる！」と反発する人が数多くいるのところも同じかもしれない。但し、出版する側にしてみれば、なにしろ「センセーショナル」だろうが何であろうが話題性があればよい訳で、橋下市長への差別記事などでなにかとこのところお騒がせだった「週間朝日」らしいコラムであったということなのだろう。今後も、著者の悪口雑言（おせじにも辛口とはいえない）調は、多くの出版社から出版社から引く手あまた（？）になるのだろう。

確かちょっと前までは、原発容認派として売っていたはずの著者が、本書では、180度変わりゴリゴリの脱原発論へと変身、原発擁護派に悪罵を尽くしてけなして「アホ」といっていることに、以前の著作を読んだことがある読者は違和感を覚えるかもしれない。しかも、「意見を変えると批判する奴がいるが、人間、意見を変えない奴は、アホだ！」と堂々たる居直り自己弁護に徹し、自分以外は「アホ」と言い出すなどのご都合主義なところは、どうも著者は「まじめな学者」という先入観で捉えてはいけないように思う。どちらかといえば、民主党から生活が第一にいき未来党から立候補した代議士のようなところが強いお方なのかもしれない。「どうなのよ！」と思わないではない。

これも180度近く変節した環境論に、憲法改正、経済破綻、橋下行政など専門外の社会批判を下町の頑固オヤジの社会批評風にアホを連発してまくしたて、適度に専門の、昆虫話や遺伝の話題をちりばめてあるところなどは、週刊誌の無責任コラムとしてはピッタリではあるが。

著者はダーウィンの進化論の傍流というか反対派ともみなされる構造主義生物学が専門であるという。

それだけに、ドーキンスが「利己的な遺伝子」などで唱える進化論極左、あるいはそれよりやや緩い本流といわれる学界主流派に対する敵意は相当強いようで、本書でも、さほどの根拠も示さずに、「ドーキンスの説は、破綻があきらかになった｣と断定、返す刀で著者達の構造主義生物学の主張が「実証された」と断言しているが、その論理の飛躍に「えっ、それって本当？」と驚愕してしまった。