ネコはどうしてわがままか　　　日高敏隆　　　　新潮文庫　　　　　

09年に亡くなった著者は、ローレンツやドーキンスなどの著作の翻訳、又、数多くのエッセーを遺した生物学界の大御所といってよい存在だった。

本書のタイトルにもあるような、動物、昆虫などに関する興味深い疑問について、専門の動物行動学の知見を使いながら、自らの日常生活やその思索とを織り交ぜて描いたエッセーは、それ以降に続く生物学者のエッセーブームを開拓した人といってもよいものだ。

一編3ページ余りのエッセーが約50篇ほど集められており、第一部が春夏秋冬毎の「いきもの博物誌」、第二部が「すねる」「落ち込む」「誇る」といった人間と動物に共通する行動を扱った「いきものもしょせんは人間じゃないの」というタイトルになっている。

各編ともに、生物学事典を読めば書いてありそうな、いきものに関する「薀蓄」が主題ではあるが、本書は、そういった薀蓄などは読んだ後ではどうでもよくなってしまうほどに、著者個人の心情が込められ、溢れた名エッセーといえるものだ。

昆虫少年がそのまま大人になったような著者、ネコが好きで、動物が好きで、その行動を飽きずにずっと観察し続けている著者、といった姿が目に浮かぶ。

そんな著者だからこそ、「てんとう虫はなぜあんなに派手な姿をしているのか」とか、「ヘビはのろいのにどうして獲物を捕らえることができるのか」といった著者の疑問に、読者も引き込まれるのだ。

どうでもよいようなことにでも、常に「なぜだろう？」という好奇心を起こすことこそ、若さ、そして学者、随筆家としてのキーなのだなぁと思った。