女は男の指を見る　　　　　竹内久美子　　　　　　新潮社　

「生物は皆子孫をのこすために生きている」というローレンスやドーキンス流の理論は、ダーウィンの進化論を下にしているという意味で現代人には説得力を持って迫るし、なにしろ実際思い当たる節もあるから納得できなくはない。

孔雀のオスはあんなに目立つ飾り羽をメスにアピールする為だけにもっている。その目的は、飾り羽の立派さをメスにアピールして受け入れてもらえれば、自分の遺伝子を持った子供をメスに産んでもらうことができるからであり、孔雀のメスも天敵にも目立つような立派な飾り羽を持っていても尚、元気であるオスの強い遺伝子を取り込んで我が子を産めば、自分(メス)の遺伝子が次世代以降にも生き残れる可能性が高いからだ−−−と聞けば、なるほどなぁ〜とは思うが、それが人間、まして自分も同じ法則にしたがっているのだと聞くと（思い当たらないではないだけに）いままで悩んでいた?「人はなぜ生きるのか？」といった類の答えが余りに身も蓋もないことになってしまい、一気に厭世観にとらわれてしまいかねない。

日高敏隆さんの動物エッセーに比べれば、彼の弟子だという著者のこの種のエッセーは、師の持つ独特なユーモア、ペーソスといった物を丸々抜いて、まさに「身も蓋もない」部分だけを抽出したような所があるが、身も蓋もないだけに、面白いといえば確かに面白い。それは、純愛小説よりも、ポルノ小説の方が面白いのと似ている。

性行為の際の男のサクション･ピストン運動（？）は、女性の膣内に残った他の男の精液を掻き出して、自分の精子を確実に受精させるための行為である−−−、と聞くと、性行為そのものが滑稽でバカらしく思えてくる。（まあ、もともとバカらしいといえばバカらしいが）

しかし、なにせ動物行動学者で著作も多い本書の著者の言っていることだけにどうも正しいとも思えるし−−−、なんだか妙に納得がいくのも、ちょっと悔しくもあったりして−−−なんとも複雑な読後感である。