無声映画のシーン　　フリオ・レマサーレス　　　ヴィレッジブックス　

古い写真を見るとすっかり忘れていたその頃のことが一気に思い出されるという経験は誰にでもあるのではないだろうか。

1955年スペイン生まれのレマサーレスのこの小説は、母親が大事にしまっていた三十枚ほどの写真一枚一枚を見た主人公がその写真によって思い出す光景を断章風に書いた28章からなる不思議な物語だ。

これらの写真はいずれも、主人公が少年期の12年間を過ごした、鉱山の町、オリェーロスで移されたものだ。その写真には、主人公（作家自身と思わせる）の少年時代の思い出、今は廃坑の町となってしまったオリェーロスの町自身の歴史、そしてそこで生き、愛し合い、そして死んでい人々の物語がこめられている。

1章ごとではさほど長くない断章のそれぞれは、写真の説明書きの少し長めのものといった趣であり、それぞれが1章で完結してはいるが、全体が主人公自身、そしてオリェーロスの町の物語なのだという風に読める。

自分より8歳若い作家の作品だが、本書の物語を読んでいるとスペインと日本という遠くはなれた国に住む者同士だが、少年期、そしてそれからの人生における生き方には、大きな違いはないのだなあぁ〜といったなんだか親近感に近いものを強く感じた。

美しい物語だ。