ナバテア文明　　　　ウディ・レヴィ　　　　　　作品社　　

一生に一度で行ってみたいと思う遺跡は多い。幸いにしてピラミッドやアブシンベルなどのエジプトの遺跡、マチュピチュやナスカなどの南米の遺跡などには行ったことがあり、念願の地を訪れることができたことに感激したものだったが、勿論その何倍もの「行ってみたいが未だ行ったことのない遺跡」がある。

中でも、どうしても行って見たいと思っている遺跡の一つが、ヨルダンの砂漠地帯、岩山の中に忽然と現れるというペトラの遺跡だ。幾度もテレビで見たことはあるものの、見る度に「ここにはいつか絶対行ってみよう！」と思う。

ぺトラの近く、死海やシナイ半島には行ったことがあるのに、ぺトラには行きそびれたのがかえすがえすも残念でならない。

このぺトラの何とも摩訶不思議で壮大な神殿を作った民族こそ本書に書かれているナバテアの人々だ。

ナバテア人は、古くはアラビア半島南部、そして時代が下るとともにネゲブ砂漠に住んでいたといわれる民族で、歴史には紀元前6世紀頃に登場したが、イスラム勢力の勃興期西暦800年頃には、歴史から姿を消してしまった。

ナバテア人は最初オリエント社会とインドを結ぶ交易に従事する遊牧民として歴史に登場、やがて優れた灌漑技術を発展させることで農業に従事する王国として繁栄した。その後、ローマ帝国の属州となったり、最初のキリスト教国となったりするなど、国としてのあり様は、様々に変容させながらも、根本的なところでは、独自の文化を守りつづけたという、稀有な人々である。

本書は、そのナバテア人たちの歴史、文化を、今日まで明らかになった事柄を主にして語り、この民族の他民族とは全く違う独特の社会観、文明観を描いたものだが、今や世界史の埒外に置かれてしまった観のある、中央アジア砂漠地帯における豊かな歴史、文化が、今の我々にもいかに大きな影響を与えているかを気付かせてくれる。

本書を読んであらためてペトラをどうしても訪れてみよう、と思った。