人間の叡智　　　　　佐藤優　　　　　文芸春秋　

「外務省のラスプーチン」だのなんだのと随分と話題になった著者だが、過去の色々な悪評も、異色の評論家活動が注目を浴びるなどしてすっかり過去の物となり、今や人気作家、人気評論家としてすっかり定着したようで、鈴木宗男さんの凋落振りに比較して、やはりこの人はそれなりの才能とバイタリティーに溢れた傑物だったのかもしれないと思えるようになってきた。

本書も「語りおろし」だというから何しろ、その人気者ぶりがうかがえる。

タイトルにある「叡智」とは「インテリジェンス」のことだというが、本書の内容をあらわしている訳ではなく、著者の気ままな放談をむりやり「インテリジェンス」というタイトルでくくっただけというものであって、内容的に一つのまとまりがある訳ではない。タイトルはともかくとして、著者の碩学ぶり、博識ぶりを楽しむという意味では中々面白い一冊であった。

昨今の世界情勢、社会情勢を見るキーワードに「新帝国主義」をおき、民主党政権の機能不全ぶりから領土問題、橋本徹氏の「維新の会」分析、東大の秋入学の是非論からイラン問題、北朝鮮問題、資本論の佐藤流読み方、と先にも述べたように、随分とあちこちに話しは飛ぶが、それぞれに対して一家言持つ著者だけに、それはそれで傾聴に値する部分もあったから、気楽に楽しめる一冊ではある。