心は量子で語れるか ロジャー･ペンローズ 講談社
現代物理学に於ける量子論と一般相対性理論の統一は様々な角度から行なわれており、大統一理論の完成もいずれは為されるだろうという確信を持つ科学者は多いし、その大統一理論が必ずしも物理学の究極ではなく、更にその先には多次元宇宙理論が控えているという推測もあるようだが、これをあながち馬鹿げた空論と打ち捨てるという訳にもいかないところまで物理学は来ているともいえる。物理科学の謎を説く究極的な理論がある！という確信はかなり強固なものになっているといえるだろう。
これらの最新科学理論の最先端を走り、世紀の天才ともいわれたペンローズが、いままで「数値化できる訳がない」と考えられてきた「こころ」(脳)の問題も、量子論を仲立ちにすれば統一的理論に組み入れられる可能性がある！と唱えたのが本書である。この理論がペンローズによって提起されたのではなければ、恐らく珍説、奇説の類として見向きもされなかったかもしれないが何しろ「あの天才ペンローズがいうのだからひょっとしたら−−−」という思いは科学者のみならず一般読者でも持つのではないだろうか。
数学と物理現象のあらゆる面での一致という現象が、全て偶然である訳はないはずであり、それが偶然でないとすれば、例えば人間心理という脳の働きを、論理的思考で全て予見することも可能ではないか（たとえば、一般相対性理論のような理論があるのではないか）という論法自身には、矛盾はないし「なるほど」とおもわないではないが−−−やはり、どうしてもなんだかオカルトっぽく聞こえなくもない。
もちろんこういった理論はなにもペンローズだけの独創でもない。考えてみれば、これに近いことはシュレディンガーも言っていたし、現代物理学者の中にも少なからぬ賛同者はいるから−−−一笑に付すわけにはいかないのだが−−−。
ペンローズ自身の手になるイラストは分かり易く、ディラック方程式や、「シュレディンガーの猫」に関する彼の見解も実に興味深い。
いつの日か、ペンローズがアインシュタインやガモフ以上の科学史の偉人となる日が来るのだろうか。
(99年4月発行)