人間と動物の人類学　　　　　奥野克巳編著　　　　　春風社　　

人間は動物の一種であることを我々は忘れがちである。一方、人間は他の動物とは随分違った生物であることも我々は日頃、強く意識させられている。

では一体人間と動物の違い、同一性がどの辺りにあるのかを探ろうとすると、これまた民族や文明毎にこの基準は大きく異なり、人類と動物の普遍的な境界線はますます分からなくなる。

そんな、「人間と動物」についてのテーマで10人の著者がそれぞれに語ったというのが本書であり、必ずしも統一的な結論が導かれている訳ではないものの、様々に考えさせる事柄ばかりだ。

ある文明では人間は、神に選ばれ者であり、動物に対する絶対優位性を持つと考えるが（現代生物学でも人類は多くの類人猿中でもっとも脳を発達させた進化の究極にあると考えているように）、中には人間と他の動物の境目は混沌としており、動物の中に多くの人間性があり、人間の中にも多くの動物性があると考え文明も多いし、かつて動物と同じ高見にあった人間がそのユートピアから追放された種なのだと考える文明すらある。

人間に限らずあらゆる動物は、他の生物を食べることによって生きている。その意味ではバクテリアも人間も何等変わりがない。猫がネズミを食べるのを嫌いながら、ひびどこかで屠畜された牛や豚、鶏や魚を食べている人間が、果たして「人間と動物」についてどう考え、どう行動すべきなのだろうか。

深いテーマだが、あくまでも生物行動学、民俗学的視点からの問題提起という形に絞っている本書だけに却って読後の想いには深いものがある。