空より高く　　　　重松清　　　　　　中央公論新社　

「なぜ小説を読むのか」と問われたら「暇つぶしになるから」と答える人も結構いるかも知れない。

暇つぶしなら他にもたくさんあるのにわざわざ小説を選ぶのは、そこに暇つぶし以上の「何かちょっとしたお得感」があるからかもしれない。折角暇つぶしのつもりで読んで、不愉快になったり、頭が痛くなるのでは意味がないが、さほど頭を使わないで楽に読めて、予定調和的に終わる物語となれば、読後感も「なんだかほんわかといい気持ち」になれてお得感も得られる小説ならば、なお良い、ということになるのではないだろうか。

そんな読者には重松清の一連の作品は最適かもしれない。読売新聞にかつて連載されていたこの小説も、ちょっと考えさせ、ちょっと感激し、読後感もちょっといい気持ちにさせてくれるという意味では最適の小説といえるように思う。

ある意味ではマンネリとも言えるかもしれないが、かつてテレビの「水戸黄門」が常に高視聴率を稼いでいたのと同じように、この種の小説に対する潜在的な需要に的確に応えている需要家目線の作品をコンスタントに提供しているのが重松清かもしれない。そういう意味からいうと、彼はまさに大量生産、大量消費時代の小説家といえるだろう。

都心から電車で1時間のニュータウンでは住民の高齢化が進み当初の開発計画もすでに何年か前に打ち切りとなり、高校の統廃合が進んでいる。東玉川高校（トンタマ）も今年限りで廃校が決まっており、主人公ネタロー君の在籍する三年生が最後の卒業生となる。入学以来、後輩がいない上に、なにかというと｢トンタマ最後の―――｣と言われ続けてきたネタロー君たちの青春を舞台にした物語−−−という重松の得意とする青春、学校物語だ。

ネタロー君と親友、ヒコザ、ドカ、それにネタロー君に告白して迫るおとなしく目立たないクラスメートのムクちゃんたちの過ごす卒業までの日々は、自分達が何をしたいのかも全く定まらないのに時間に追いたてられるように卒業を迎えなければならなかった読者達も、自らの青春時代を重ね合わせて甘酸っぱく、懐かしく思い出されるだろう。

ネタロー君たちのそんな日々に、かつての青春学園ドラマそのままのスタイルで「卒業までを、『最後の』ではなくて『始まり』の日々にしてみろよ」と迫る熱血タイプの教師、ジン先生、ジャグリングをネタローに教えるフジトモさん、彼等の両親、といった大人がそれぞれに、この物語に絡んでくる―――というのもいつもの重松作品のスタイルだが、やはり「上手い！」と思わせる。

予定調和といえば予定調和だけれど、物語の終わり方もほっと一息つけるし、しかも余韻があり、「面白かった！」と思えるし（なにしろ、読んで疲れるということがない）、又、重松清の作品を読みたくなるのだからたいした作家だと思う。