食欲の科学　　　　　櫻井武　　　　　　　講談社　　

人間には様々な欲望（煩悩）が備わっている。しかしその欲望の多くは、生きていくためなら一時的あるいは半永久的に押さえる（がまんする）ことができるが、食欲ばかりはそうはいかない。

全ての生物は生存の為にはエネルギーを補給する必要がある。即ち、食べなければ生きていけないのだから食欲とは即ち人間を含むあらゆる生物にとって根源的な欲求であり、ヒトにとっては「食べることすなわち生きること」ともいえるものだ。

本書は、そんな食欲という我々の根源的な欲求についての脳科学からのアプローチの歴史、現在を描いたもので、その驚きの世界は、なんだか目からウロコのような感慨を与えてくれる。

そもそも「食欲」がなぜ起き、一定程度の食物を摂ったらなぜそれ以上の摂取をしなくなるのか―――当り前に思えるこれら一連の働きが、脳の中でどのようなメカニズムによって保たれているかが語られるのだが、その実に上手くできたメカニズムにおどろかされる。

「グルコース」と「レプチン」という食欲センサーの仕組み、その研究の歴史、レプチンやグルコースのシグナルを受け取る視床下部の機能といった具合にかなり専門的な解説がなされるが、語り口は易しくて分かりやすい。

又、最近のダイエット医療の現状、ダイエット薬の開発競争の内幕といったトピックにまで話は展開していく。

食欲という我々のもっとも原始的な欲望に関する、最先端の科学、という組み合わせは実に興味深い。