複製された男　　　　　ジョゼ・サラマーゴ　　　　　　　彩流社　　

作者は、ポルトガルのノーベル賞作家だとか。

なんとも不思議な小説であり読む内に、自分とは何か、存在とは何か、といったある種哲学的な命題を突きつけられたような妙な気分になった。

38歳の高校の歴史教師、マッシモ・アフォンソは、ある日同僚から勧められたビデオを見ていてその中に、自分とそっくり、というか自分としか思えない無名の俳優が出演していることに気付いた。同じ映画会社の作った他の作品を調べてみると、そこにも自分としか思えないこの俳優が出ているではないか―――。

もし、自分がこの主人公と同じようなことになったら−−−と考えたら、この作品の結末まで一気に読まざるを得なかった。

自分の意識が全くないところで、まさに自分自身としか考えられない人物が生きて、活動しているとしたら−−−今、ここにいる自分は一体だれなのか―――。

さすが（?）ノーベル賞作家だけあって、ストーリー展開も意外で引き込まれるが、作品の中で述べられる作家の文明批判、現代人の不安、といった部分にもおおいに考えさせられ引き込まれる。

文体も小説、物語というには何とも風変わりだし、読者に問いかけるような文章も最初は面食らうが、慣れてしまえば却って心地好い。

とっつきにくい面はあるが、これぞ「文学」という香りは一級品だ。