大往生したけりゃ医療とかかわるな　　　中村仁一　　　　幻冬舎　

ある程度の年齢に達すれば人間、体のどこかにガタがきて徐々に衰えそして死んでいくのが自然であり、かつて人はそのように自然のままに死を迎えることを大往生といってむしろ祝ったりもしたものだが、老いること、病むことを嫌い自然に逆らってまで死を避けようというのが医療、特に老人医療で行なわれていることだ。

よい例が、自分は大往生を理想として、大往生を遂げたいと思っていても、一旦倒れて救急車で病院に運ばれる−−−ということにでもなれば、その望みは絶望的に立たれる。

「食べたくない」「食べられない」患者にはぐちゃぐちゃにした味も分からないような食事を2時間もかけて無理やりスプーンで押し込むし、場合によっては胃ろうといわれる胃に開けた穴から流動食を流し込むといった「治療」が行なわれる。救急車で病院に運び込まれた場合は、本人や親族の意思にもかかわらずもはやこれらの器具を取り外すことはできない。

もはや体が受け付けられなくなった食事を、むりやりこうやって流し込むことは、患者にとっては苦痛以外の何物でもないという。自然のままに死を迎える場合には感じない痛みも、死の間際まで壮絶な形で続く−−−というのが老人病院という現場で長年患者を診てきた著者の意見である。

拷問のような苦しみを味あわずに大往生を遂げるための方法を指南する本書に対しては、医療関係者のみならず1分でも長く生きていたいと延命治療を望む患者やその家族からは反発もあるだろうが、「生物は本来繁殖を終えたら死ぬのが自然だ！」という著者の考え方に賛同する人も又多いのではないだろうか。