クライシス･キャラバン　　　　リンダ・ボルマン　　　東洋経済　

三代続く独裁政権によって北朝鮮では国民の1/3が飢餓状態にあり実際この冬も子供たちを含む多くの人々が餓死しているという情報もある。

日本人拉致者の奪還を図り、ミサイル発射、核実験等を進める北朝鮮をどうにか押しとどめる為には、経済制裁を更に強化すべきだし援助などもひかえるべきだという世論が強いが、子供たちをこの飢餓状態から救い出すためには、金王朝を弱体化させることが最短の道だという意見も頷ける。

今、飢えている子供たちを救うには、政権弱体化等と悠長なことを言っていないで、人道的見地から少なくとも食糧援助は行なうべきだという意見は確かに頷けるものの−−−。過去、食糧援助が子供たちには届かず、金王朝体制を支えている特権階級の懐を潤し、北朝鮮軍人の食糧になってしまい却って独裁を支援することにつながってしまったという苦い経験を思い出せば、「人道的」と思っておこなった援助が逆に北朝鮮の人々の苦しみを更に長引かせることになるのはあきらかだ−−−。

本書で取り上げられているのはこのような「人道援助」が孕むジレンマの数々である。　アフリカやアフガンの難民キャンプでの「人道援助」のつもりが、虐殺当事者たち助けているケース、人道援助物資の横流しによって紛争の一方の当事者が武器を購入、益々被害者が増えているケース等々、これらの紛争地に実際に赴いてきた著者ならではの人道援助の矛盾には、心が痛むだけではなく怒りすら覚える。

生活保護の不正受給が次々と明らかになっているように、あらゆる種類の「人道援助」にはそれにただ乗りし、悪用しようという似非被害者がいるし、莫大な「援助資金」を自らの懐に入れようとするもの、あるいは「人道主義者」としての名声を得ようとする売名目的の者もいる。本書でも、そういった例が数多く指摘されている。

手足を切断された子供をその親から奪い、その子の写真を新聞に載せて、「かわいそうな子供を救う！」という名目で莫大な資金を集め自家用ジェットや住宅購入に当てる者、あるいはその手の「可哀想な子」を善意溢れるアメリカ人に里子として斡旋し仲介料を稼いでいる「慈善団体」が数多くある。

もうこうなると、完全に「悪徳援助ビジネス」であり、虐殺当事者達とこの種の慈善団体では、どちらが非人道的かといった比較はできないほどだ。

「困っている人を助けたい」という人々の善意だけでは解決がつかないどころか、却って事態は悪化するかもしれない―――実に考えさせられる問題だ。

大変な迫力を持って書かれた本書であり、息もつかせず読ませるし、我々はこういう現実から目を背けてはいけない！とは思うものの、その余りの現実に読後、気分が悪くなるほどだ。