ホロコースト後のユダヤ人　　　　野村真理　　　　世界思想社

2000年以上に亘ってアラブの人々が住んでいたパレスチナの地に、ある時ユダヤ人が突如大挙して現れ「ここは、神が我々ユダヤに約束した土地だ」といってイスラエルという国を作った。

パレスチナ人にとっては、これほど理不尽な話もないけれど、今も欧米をはじめとする国々はイスラエルの後ろ盾となっている―――中東問題の原因の全てはイスラエルという国がこの地に建設されたことに起因するといってよい。

我々日本人、いや恐らく欧米でもほとんどの人が、このイスラエル建国の正統性の根拠はシオニストといわれるユダヤ人の「約束の地」帰還運動にあると見てしまうが、本書を読んで、実はシオニスト運動は第二次大戦終結後のユダヤ人問題処理に困った欧米各国による都合のよい「ユダヤ人のパレスチナへの追放運動」に、一部のユダヤ教徒が便乗したものなのだと知って驚いた。

ホロコーストの生き残りや、戦後のポーランドやルーマニアで起きたユダヤ人排斥運動からの避難者たちは、連合軍が設けた各地の避難キャンプに収容され、ここから以前住んでいた国、あるいは親類などが住んでいる米国などへの帰還、移住を考えていたという。しかし、ユダヤ人たちが目指した国、英国や米国など各国は、ユダヤ難民の受け入れに消極的でキャンプの収容者数は増える一方だった。

この機会をチャンスと捉えたシオニストグループ（ユダヤ教徒のほんの一部であったようだ）は、キャンプ収容者をパレスチナ国民として直ちに編入、彼等をイスラエル建国戦争の為に戦う兵士として徴兵しようとした。

キャンプのユダヤ人というお荷物の処理に困っていた各国は、このシオニストの思惑を渡りに船とばかりに便乗したというのだ。

ホロコーストを生延びたにもかかわらず、意にそまないパレスチナに送られ兵士として死んでいった者も多かったし、イスラエル到着後、短期の内にこの国を後にしたユダヤ人も多かったという。ユダヤ人が皆「神が約束した土地」への移住を望んでいた訳ではないし、むしろイスラエル行きを嫌がる者の方が多かったようだ。

こういった歴史的背景を理解すれば、現在の中東問題の見方も随分違ったものになる。

それにしても、ホロコーストやユダヤ人排斥運動の当事者ではなかったパレスチナ人が、それらの責任を全て被されてしまったというのだから−−−気の毒としかいいようがない。