なんにもない　　　フランク・クロース　　　　　白楊社　　　　

世界の多くの民族が、「この世は無から生まれた」とする創世神話はもっている。仏教をはじめとする多くの宗教でも「無」こそがその教えの根本にあるとされている。これほど昔から人類が考えてきた「無」とは一体何なのか――まあ、「無い」ものをあたかもあるかの様に想像すること自身が論理的矛盾でもあるのだが−−−。

本書は最先端科学からみた「無」とは何かというテーマを中心に、広く「無」全般についての最新の知見を語るという、言ってみれば「ど真ん中」の一冊ということができる。(副題が「無の物理学」である)

「この宇宙は138億年前のビッグバンからはじまった」ということを認めながらも、我々はその138億年前に時空が始まる「その前はどうなっていたのか」という疑問を禁じえないし、物質の一つもない「真空」こそが「無」なのではないか？といった、科学者に言わせると「無茶振りな質問」（結局、何も分かっていないということのようなのだが）をしてしまいがちだ。本書はそういった疑問について、相当丁寧に答えてくれる。（完全に100％納得できたという訳ではないが）

本書を通じて「無」の世界が、実はきわめて豊穣なゆらぎの世界であること、無の世界を解明することはすなわちその無の先にある、極めて広大な多世界、多次元宇宙がある可能性を教えてくれる。

一般相対論と量子論の統合などの未解決の問題についての丁寧な解説、ヒッグス粒子（本書はそれが発見される以前に書かれたものだが）とはいかなる物かといった解説などもあり、宇宙物理学の最先端研究のおさらいの一冊ということもできるお勧めの一冊だ。