世界の秘密　　　　　リチャード・ドーキンス　　　　早川書房　

本書の原題は直訳すれば「何が真実を知るには」ということになるだろうか。「利己的な遺伝子」などの著書によって知られる進化生物学の権威ドーキンスによる、青少年向け科学啓蒙書である。

ドーキンスの時には過激ともいえる科学啓蒙の姿勢は、往々にして神による天地創造だとか、進化論の否定などを主張する宗教界からは猛烈な反発を受けているが、ドーキンスはそのような反発に対して、更に挑戦的な「神は妄想である」始めとする数多くの著書で反撃を加えている。その論法は実に理路整然としていて、反宗教とはいかないまでも「学校で進化論を教えるな」とか「神の為にテロを行なえ」などという狂信者に不快感をもっている人々にとっては胸の空くものではある。（もっとも、何を言われても宗教の側が考えを改めることは期待できないが）

ドーキンスが特に反対しているのは、生まれたばかりで何の判断もできない子供たちに洗礼を施し、さらには天地創造説を吹き込むといった宗教による子供たちへの洗脳である。

そういう洗脳をされる前に、青少年を論理的思考、科学的思考がいかなるものかを教えようとドーキンスが著したのが本書である。

各章は、生命の起源、生物の多様性、物質の根源、地球、太陽と星について、光の本質と虹、宇宙、地球外生命、地震とプレートテクトニクスといった少年達が抱くであろう疑問について、ドーキンスは丁寧に解説していくが、特に力をいれているのが、本書の目玉ともいえる、宗教によるトリックのネタばらし部分である。

曰く「なぜ悪いことは起こるのだろうか？」「奇蹟とはなんだろう？」という章では、ドーキンスお得意の理路整然たる論理、確率の知識を用い、さらには論理学の技法を駆使して、宗教がよく使う「神のご意思」だとか「奇蹟」のインチキさ加減を完膚なきまでに打ち壊していく。

神の為だと信じて自爆テロに突き進む若者たち、手品のようなインチキを神の御業などと信じて大枚の金品を提供してしまう人達を一人でも救いたいというのがドーキンスの願いなのだろうが―――2000年も続いてきた宗教がこんなことでへこたれることはないというのが、哀しい現実ではあるが。