対称性　　　　　レオン・レーダーマン/K・ヒル　　　　白揚社　

副題が「レーダーマンが語る量子から宇宙まで」とあるようにノーベル物理学賞受賞者であるレーダーマンと素粒子物理学者ヒルによる一般読者向けの最新物理学書である。

副題の通り極小の世界を語る量子論、素粒子物理学から極大の世界を語る多次元宇宙論に至るまでを支配する「対称性」について語るレーダーマンの筆致は情熱的ともいえるものだ。

そもそも、原子核と電子の間に広がる「無」とも思える空間を支配する対象性とは何かという点になってくると、現実に我々が知感できない世界であるだけに、その理解の為には、かなりの事前知識を必要とするし、それらの知識なしでは到底理解不能とも思えるのだが、本書でレーダーマンは、我々が知感しうる日常の世界で見られる多くの対称性を例に、あるいは今まで実験物理学で得られた具体的な例を上げながら説明してくれるので、非常に分かり易い解説書になっている。

取り上げられているトピックは、エネルギー保存則、ネーターの定理、相対性理論、CP対称性の破れ、量子力学等々、実に多彩で興味深いものばかりだが、それらのトピックを積み重ねることによって、この世界を支配している法則が対称性であるという結論に導くレーダーマンの手法は、一編の長編小説に似たところもあるように思う。

138億年といわれるビッグバン直後の宇宙から発せられた光である宇宙背景放射から、あるいはガボンの天然原子炉におけるウランの放射能半減期のデーターなどを上げて、この宇宙を支配する物理法則は、地球上であっても宇宙の果てであっても、あるいは今現在であっても138億年前であっても、まったく同じであるというレーダーマンの前提に感動し、無の世界が実は何とも豊かな対称性の生成と消滅の世界であることを知ってさらに感動する−−−といった具合に最後まで飽きさせない。