ふふふふ　　　　　　　井上ひさし　　　　　講談社　

2010年に逝去した著者が05年から09年に「小説新潮」に連載した一編4ページ程の時事問題エッセー集である。

井上ひさしは、早くに亡くなった父が社会主義者であったとか、二番目の妻の父が日本共産党所属の衆議院議員であったという経歴からもわかるように、その思想はどちらかというと体制批判、いや反体制的であったといわれている。

そんな（いささか偏った）左翼思想の持主であることを隠そうとせず、積極的に政治批判、体制批判を述べるエッセーは、昔から「好きな人は好きだが、嫌いな人には嫌われる！」タイプのものであった。

もっとも、彼は激しい天皇制反対論者である旨をことあるごとに言っていたものの、園遊会には喜喜としてでかけ、学士院賞などの賞も辞退しなかったことで、一時は彼の仲間である「朝日文化人」達からは激しい批判を受けたこともあるから、その左翼的発言のどこまでが本音なのかはいささか疑わしいところもあるが−−−。

自民党政権批判、戦後体制批判、戦争批判など、本書に収められたエッセーのほとんどの部分が、まさに「朝日文化人」的発想に基づいていることは明らかだが、ある意味では彼の批判は「ブレない」というよさを持ちつつもそれが「ワンパターン批判」だといわれても仕方のないところがある。

井上ひさしの本音が一体どこにあったのかは、どうしても彼の園遊会や学士院賞などの実行動と照らし合わせてしまうとわからなくなってしまう。

そういう先入観があるからだろうか、教条的な「新左翼の考え方」そがあまり好きになれない自分にとっては、本書の多くの章の主張は、「またまた、何を言っているんだか！」といった感じにうけとれてしまい、エッセーとしてさほど面白いとは感じなかったのだが−−−。