バイオバンク　　　　フロランス・ベリヴィエ　　　　　　白水社　

病院で検査の為だと言って採血されるたが、その血液からあなたの遺伝子情報が採られこれがデータとして保存されるとしたら−−−あなたの遺伝子情報はあなたの個人情報でもあるのだがそれが勝手に読み取られ、記録され保存されることに問題はないのだろうか。

ましてあなたの遺伝子情報から新しい医薬品が開発されその医薬品によって大儲けした製薬会社と、あなたの採血をしてその記録を保存していた医療機関、そして採血に当たった医師との三者でその遺伝子情報の所有権争いが起きていた場合、遺伝子情報の持主であるあなたにはその儲けの分け前を主張する権利はないのだろうか？　

血液ではなく、それが手術によって切り取られたあなたの臓器であった場合、その所有権は誰に属するのだろうか？　生者の臓器ならまだしも、行き倒れの死体から採った臓器を移植などで使用する権利は誰に所属するのだろうか？？？

人間の生物試料やデータを収集しあるいは貯蔵することは山中教授によるIPS細胞の例などでも顕著なとおり今や当たり前に行なわれているが、それにともなう法制度・倫理問題が一体どうなっているのかなどはどちらかといえば見逃しがちな問題だ。ここをしっかりと固めてこそ、これからの医療革新がもたらすであろう生命倫理の相克を克服する為の基礎があるのではないだろうか。

本書はそういった生体試料の採取、利用にかかわる倫理的正当性、所有権についての、各国における様々な議論を纏めたものであり、内容は地味ではあるものの確かにここをしっかりと捉えずに前のめりに進められる商業主義的に進められる医療技術の現状を見るにつけて我々もこの問題に深く関心を持つべきだと反省させられる。

シカゴの博物館には100年以上前の男女の人体の縦切りと横切りのスライス標本が展示してあったが(今もあるかどうか知らないが)、生体試料とはいうもののあそこに展示され続けている人物（黒人奴隷だったとも聞いたが）のプライバシーはどう考えられているのか、現代のアメリカの法律はどうなっているのか？と不思議に思ったものだった。

人体標本の展示が良いなら当然、臓器の利用も見世物化もよいということになるのだろうし、血液に至っては本人の同意などなくてもどう使おうが全く問題ないということになるだろうし−−−。

いずれにせよ、あまり気持ちのいい話ではないし、むしろオゾマシイとも思える。

そう考えるとIPS細胞だって結局は誰かの個人情報である「幹細胞」を使う訳で、その個人情報を勝手に操作し、あるは利用することには何の問題もないのだろうか。

IPS細胞も、しっかりとした倫理問題や法律問題をクリアしない限りオゾマシイといわれても仕方ないということになるとしたら―――。

(11年12月発行)