二重らせん　　　　　ジェームズ・ワトソン　　　　講談社　　　

20世紀最大の科学的発見としてアインシュタインによる一般相対性理論の提唱とともに上げられる「DNAの二重らせん構造の解明」だが、その業績でノーベル賞を受賞したのは著者ワトソンとフランシス・クリックの二人だった。（最近、クリックのノーベル賞メダルが2億円で競売されたことが話題になったが）

この世紀の偉業にいたる経緯はどのようなものであったか。本書はワトソン自身が、解明に至った2年間の出来事を赤裸々に綴ったもので、ノーベル賞獲得の競争が、実は多くの科学者たちの血なまぐさい競争によってなされたこと、さらには科学者という人達一人一人が、いかに人間臭い人達であるのかといった「知られざるノーベル賞の裏側」などが語られている。

ノーベル賞受賞という「功成り名を遂げた」科学者である著者がここまでその受賞にいたる経緯を赤裸々に（とはいってもあくまでも彼の視点に立ってのものであり、多分に自己弁護、自慢といった部分が含まれてはいるが）描いたのは、「DNA二重らせん構造の解明」という偉業は実は著者の業績とばかりは言えず、根本の部分は本書で酷い書かれ方をしている女性科学者ロザリンド・フランクリンの研究によって為されたものであり、ワトソンとクリックは彼女の業績を盗用した−−−などという噂が付き纏っていることと大きく関連しているようだ。（フランクリンは若くして亡くなり、ノーベル賞の対象外になってしまった）

一つの業績に関してノーベル賞の受賞者が3人に限られていることから、既に半世紀以上前から本来受賞すべきだった人物が受賞から外されるという問題が起きていたこと、同じ分野の研究を行なっている科学者同士でその3つの椅子を巡って、実にどろどろしたお互いの叩きあいといってよいようなバトルがくり返されてきたことなど、ワトソンのある意味ではきわめて率直な告白が語ってくれる。

科学史の実に重要な場面を重要人物が描いた本書は、永遠の歴史資料としてその価値は永遠に残るのではないだろうか。