ツナグ　　　　　辻村深月　　　　　　新潮社　　　

1980年生まれというこの作家の作品を読んだのははじめてだが、コミックやテレビドラマ全盛時代に育った若手女流エンターテイメント作家らしい手慣れたストーリー作りの手腕に驚かされた。

人は一生に一度、一晩だけ死んでしまった誰かに会える。その願いを死者に伝えてくれる使者がツナグと呼ばれる少年である。

生者からの「会いたい」という意思をつたえられた死者も、一度だけ生者と再会できる。生者も死者も「たった一度だけ」のこのチャンスをどう使うべきなのだろうか―――この小説を読みながら読者は皆、自分だったらその生涯一度だけのチャンスをどう使うだろうか、そして自分の選んだ「死者」が一生に一回ならぬ「一死に一回」だけのチャンスを自分の為に使ってくれるだろうか−−−と考え込んでしまうのではないだろうか。もう、これだけでこの作家の「作品設定の圧勝」と言ってよいだろう。

4組の死者と生者の邂逅とツナグ自身の物語の5話がオムニバス風に語られるという構成もテレビの2時間ドラマ枠なり月刊誌連載を意識したかのようになっているのは、作家が現代の若者文化の申し子だということからなのだろうか。

日々の孤独に生きる女性とそういった女性のアイドル的存在であった急死した女性タレント、代々続く家を守ることを忠実に果たしている生真面目で頑固な息子と、老いて亡くなったその母親、親友でありライバルでもあった女子高校生2人、突然失踪してしまった婚約者のことが忘れられず7年待ち続けている男、といった生者と死者の組み合わせそれぞれが「泣かせる」ものであり、エンターテイメント小説として抜群だ。