落葉･回転窓　　　　　　木山捷平　　　　　　　　講談社　　

木山捷平は明治37年生まれ、昭和初期には太宰治等と同人誌を創刊するなど作家としての道を歩み始めるが、彼が本格的に作家として活躍したのは新境地を拓くべく赴いた満州で現地召集を受け終戦を向かえ、一年余りを難民として過ごした後に帰国し、その体験に基づく多くの短編を著わしはじめた終戦後のことであった。

そんな、短編私小説作家としての木山捷平の作品の中でも評価の高い11篇が収められたのが本書だが、戦争を挟んだ時期の日本の庶民の風景、心情、といったものが実に飄々とかもし出された珠玉の作品群となっている。

いずれの短編は自身の体験や、生活の日常に基づくものだが、その中には満州での難民生活、病気や怪我の療養生活といった厳しい状況を背景にしたものがあるのだが、どれも軽いユーモアを含んでいる。

そのユーモアが決して人の愚かさを嘲笑ったり、あるいは自虐におちいったりするのではなく、その厳しい中にも、人生や世の中に対する慈しみのもってみている木山自身の優しい眼差しが感じられる。そんな彼の視点は、時代を超えて現代に生きる我々にも訴えるものがあるのではないだろうか。

いずれの短編も、その結末は意外といえるほどにあっけなく終わってしまい、ある意味では読者は「しり切れとんぼ」感覚を与えられてしまうが、それだからこそ、作品の残す余韻は強い。しり切れとんぼのままの日記の続きを読んで見たい！という気持ちになるのだ。

この短編集を読んでみて、今では忘れられようとしているこの作家の作品の高さに感心し、木山捷平の活躍した時代（彼と知己のあった太宰や井伏等々を含めて）は、日本の文学の一つの興隆点だったのだろうなぁ〜とつくづく思った。