医療幻想　　　　　　久坂部羊　　　　　　筑摩書房　

風邪気味で熱がでたら病院に行く、というのが今の常識だ。しかし、風邪で熱が出るのは体が風邪の原因であるウィルスなどを殺そうという正常な反応であり、それを無理に下げるのは却ってよくないし、病院へなどへ行かずゆっくり寝ていればよい！などと言ったら、非常識！といわれる。

ガン検診を受診して早期発見、早期治療をしたグループと、検診を受診しなかったグループのガン死亡率には有意の差はない！といったら（これはすでに国際的には認められた事実）これも又日本では「非常識！」といわれる。

医師である著者が、その属するグループである医療業界の反感を買うことをズバズバと言う本書は、「そういえば、昔は風邪を引いたら早めに寝るだけだったなぁ〜」とか、「ガンの手術や、苦しい抗がん剤治療を受けながら、あの人はあっという間に亡くなってしまったなぁ〜」などと思い当たる読者にとっては、なんとなく納得の行く一冊である。

著者は我々が抱く数々の「医療に対する幻想」を挙げ、医療にはそれほどの期待を持つべきでないこと、そういった医療幻想が医学界、製薬業界といったその世界で「喰っている人達」によって巧妙に仕掛けられていることを指摘してくれる。

メタボ検診の基準がいかに根拠のないものであるか、血圧やコレステロールの基準が実は製薬業界の利益の為に仕掛けられた罠といってよいものであること、コレステロールがある程度高い人の方が健康だ、血圧も諸外国や嘗ての日本の基準値より常識外れに低く設定されていること――――この基準だと日本人の大半が高コレステロール、高血圧とカテゴライズされ、降圧剤やコレステロール薬の客にならざるを得ない―――等、最後まで目からウロコの啓発が述べられている。

胃ろうが80％以上の患者、高齢者ならばほぼ100％の患者にとって拷問に近いものであること（結局は、医療機関の儲けの為でしかないこと）等、最近は随分と知られるようになっては来ているが、それを止める手立てもないままに医療幻想が暴走していることにあらためて恐怖を覚える。

「自然の死」を迎えることがまさに正真正銘で幻想になってしまったことにこそ、現代医療の最大の問題があるのではないだろうか。