オバマの戦争　　　　ボブ・ウッドワード　　　　　日経新聞社　　

オバマが大統領に選ばれた08年11月から10年末迄の約2年間、オーバルオフィス(大統領執務室)におけるアメリカのアフガン戦略決定のドラマをドキュメントタッチで描いたワシントンポストの名物記者、ウッドワードの労作だ。

ホワイトハウスで繰り広げられる、大統領、副大統領、ホワイトハウススタッフ、国家安全保障会議、国務省、国防総省、CIA、国家情報局の高官、軍幹部、それにパキスタン、アフガン政府高官といった実に多数の人々が繰り広げるどのようにしてアフガン戦争を遂行のドラマを、それらの当事者にリアルタイムでインタビューし、一体、誰が何を発言し、どのような討議が行なっわれたのか、その結果、どのような作戦が決定され、どのようにアフガン戦争が遂行されてきたかを、あたかも著者がホワイトハウスの地下にあるシチュエーションルームにいたかのように再現するというスタイルのこのドキュメントは、記者というアウトサイダーであるにも係わらず、ホワイトハウスのインサイダーと言えるほどに豊富な情報ソースをもつアメリカ屈指の大物記者である著者ならではの作品と言ってよいだろう。

アメリカのいや世界の最高権力を持つ大統領とその大統領を取り巻くこれ等の人々が、それぞれに個性的であり、そこにはそれぞれのプライドや欲望といった要素が多大に絡み合っているのだという事実を知ると、こういう形で戦争が遂行されているという事実に何だかちょっと恐怖すら感じるが、同時に世界の最高権力府といえども、実に生々しい人間同士のぶつかり合いの場であるという事実がなにか少し安堵感さえ与えてくれるようにも思う。

アフガンの大統領カルザイをはじめとする政府高官の腐敗振り、パキスタンのザルダリ大統領などの狡猾さといった戦争当事者の醜悪な姿も遠慮なく描きだしており、こういう連中と妥協しながら、時には脅しをかけながらアフガン戦争を続けているアメリカという国の行動原理はいったいどこにあるのか−−−などとも考えた。

本書の発行は11年6月であり、本書に描かれているのは10年暮れまでの期間であるため、今本書を読んでもその情報は、フレッシュに欠けている面が本書の難点だ。（この手のドキュメントの賞味期間は短い）