夜の国のクーパー　　　伊坂幸太郎　　　　　東京創元社

「ガリバー旅行記」だとか「オズの魔法使い」のような小説のジャンルをなんというのだろうか。

ファンタジー小説とでもいわれているのかとも思うが、「小説」の基本は「空想の世界で自由に遊ぶこと」だとすれば、ファンタジー小説こそが本来の小説らしい小説といえるのかもしれないと、本書を読みながら考えた。

この小説はファンタジー小説であり、他の小説のパロディー、オマージュでもあり、又、ある人はSFファンタジーだともいうかもしれな作品であるが、こ手の小説になれていない身にとっては全体で400ページ程の特に前半部分の設定は中々頭に入ってこないで苦労するところはある。

但し、後半部分に入ってくると前半部分の全てのネタ振りが、次々に解消されていく感じがするし、そのタネあかし部分に意外なほど、深い教訓が込められているようにすら思えて読後感は極めて爽やかである。

冒頭部分は猫のトムを語り手として展開する。ある時、トムの暮す国に、長く戦争をしていた敵国の兵士がやってくる。敵国の兵士たちは、敵国の受け入れを国民に説得し終わった指導者を殺害し、トムの国の人々は敵国の占領下におかれてしまうのだった。この冒頭部分だけでも、かつての東欧とソ連の関係だとか、オーウェルの「1984年」などを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。

トムは、仲間たちとその様子をこの場所に迷いこんだ四十男の胸に座って語るのだが、この男は、妻に浮気されそのショックを忘れるために釣りに出かけたものの船が転覆し気を失って気がついた時には草むらに蔦でしばられて横たわっていた−−−というガリバーを思わせる設定になっている。

この後、様々な小説のパロディーや、現実の政治史における戦争と平和に関する教訓といった事柄を複雑にからませた物語展開となるのだが、ファンタジー小説というジャンルの持つ「作家にとっての自由さ」を十分に発揮した奔放な展開となって行き、終始読者に何かを考えさせるという重さを持つ小説ともいえる。（少年漫画の「One Piece」が漫画とはいいながら、読者に様々な社会問題を考えさせる仕組みになっているのと同じかもしれない）

この小説を読んでいて、特に、支配とは何か被支配とは何か、という問題について色々と考えさせられた。被支配者でありながら支配されているとは感じないということは十分あり得る。日本とアメリカの関係はどうだろう???

そういえば、オーウェルも｢1984年｣の仲で、「自由は屈従である」と言っていたことを思い出した。