気になる科学　　　　　元村有希子　　　　　毎日新聞社　　

肩書が「毎日新聞科学環境部」とあるように、著者は「科学部記者」であり、科学記事と科学コラムを書いているあくまでも「記者」であって、科学者ではない。

科学者という人たちが、科学村という特殊な世界で生きていて一般とはちょっと違った世界の住人であるということは（別にどちらが上でどちらが下ということではないが）、様々な問題の原因になっていることは、ここでは置いておくとして−−−。

それでは科学的なマインドという点では、「科学記者」と「素人」との違いはどの程度あるのだろうか。素人にも科学に対する関心が高く知識が豊富な人もいるし、科学者以上に科学マインド、科学倫理観の高い人もいるし、トンデモ科学ですら盲信してしまう科学音痴もいる。

科学記者という立場は実は、限りなく素人に近い側にあるにもかかわらず、素人の側も、時には科学記者自身も、科学記者は限りなく科学者の側にあると考えがちだ。

正直言って、著者に限って言えば科学記者とはいうものの、素人とさほど変わらないし、ある部分ではトンデモ科学系に少し足を踏み入れかねない部分をもったアブナイ素人的な要素すら感じられる部分を持っている。

但し、アラフォー（？）で自立している独身という現代の主役的存在である女性代表としての彼女の発言（発信）は、まさに世の中の素人（別にバカにしていっている訳ではなく）の科学マインドは、こんなものであるという指標としては、最適なものだとも思えるだけに、本書は一読の価値があると思う。

科学や科学技術の発展の先に一体何があるのかという疑問、原発事故を経験して「原発は恐ろしい」と思い、トンデモ科学の胡散臭さには笑うものの「本当にトンデモ科学だと断定してよいの？」とちょっと不安にも思う−−−。実に正直でよいとは思うが、「科学記者」という肩書でこれを新聞の科学欄で毎日書かれた日には、読者の多くは、この記事は「科学的」だとか「科学者がそう言っている」と誤解する可能性は高いだけに、やはり問題もあるように思う。

科学者がいう「事故の可能性はゼロではない」というのは、実は「事故の可能性は無い」という意味もしくは、「99.9999999･･･％無い」ということなのだが、新聞の科学記事はこの発言を「0.000000･･･1％は、事故の可能性がある」あるいはもっと略して「事故の可能性がある」と翻訳して記事にする。

そう書かれれば、一般読者（素人）は、大騒ぎするだろうし、政治家も役人もその大騒ぎを無視する訳にはいかなくなる。

そういう意味では科学記者という肩書は、実はもの凄く社会的責任の重い地位なのだが―――本書の著者には、その辺りの覚悟は正直、全くと言ってかんじられないように思う。まあ、新聞の科学記事とは所詮そんなレベルのものなのだと分かっていればよいことなのだが。