舟を編む　　　　三浦しをん　　　　　　光文社　　

「新明解国語辞典」（新海さん）のユニークな語釈が話題になるなどして、近年、いままで余り語られることのなかった辞書編纂という仕事の舞台裏に注目が集まるようになってはきたが、どちらかといえばこういった裏方の仕事が本書のようなエンターテイメント的な小説に仕上がるとは、さすが三浦しをんという作家の目の付け所は違うと感心した。

玄武書房営業部に努める院卒社員、馬締（まじめ）は、名前の通りまじめな変わり者として営業部ではやや持て余されていたが、ある時、同社で長年編纂準備中の大辞書『大渡海』の編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。

玄武書房の別館の片隅で、その存在さえ社内からも忘れられがちな辞書編集部だが、辞書編纂という根気と忍耐のいる仕事に長年携わっている個性的なメンバーが揃っていた。

物語は、この馬締を中心に、編集部の面々、そして監修者である老学者、馬締の前任者といった人々の恋愛や人生論といったものを織り交ぜ、辞書編纂がどのように行なわれているのか、辞書の語釈はどのように作られていくのかといった薀蓄などを絡めながら語られていく。

馬締が辞書編纂に加わってから15年という年月を経て「大渡海」が完成するという大団円を向かえるのだが、全編で260頁ほどの適度な長さに押さえ、エンターテイメント性の強い物語に仕立てあげた著者の力量は中々のものだ。

話の辻褄には若干、気になるところもあるが、題材の良さ、著者のストーリ作りの美味さがあいまって全く気にならない。

ベストセラーとなっていることが十分頷ける一冊だ。