ナマケモノに意義がある　　　　池田清彦　　　　　角川書店　

本職は生物学者である著者だが近著「アホの極み」などにもあるように環境問題や社会問題についての辛口というか、あまり品のない批評がマスコミ受けするところもあって最近は立て続けに様々なジャンルにおける発言が著書として刊行されているようで、まさに売れっ子評論家と言った方がよいのかもしれない。

本書も、タイトルが目をひくように、世間で一般的に言われている「勤勉」だとか「努力」といった道徳を笑い、「生きることに意味はない」とか「『いい人』にわざわざなることはない」「あなたは『かけがえのない存在』ではない」などといった逆転の発想（？）を吹き込もうとする、過激な主張で満ちており、お手軽価格の新書版でもあることも手伝って、サラリーマンが雑誌代りに気楽に読み捨てることができる一冊として売行きもよいようである。さすがに「売れっ子の著書」だと感心させられると同時にちょっとあざといようにも思うが。（勿論それは著者の責任ではなくて、編集者や出版社の責任なのだとは思うが）

著者の専門分野である構造主義生物学が、進化生物学においては異端とみなされている為に、どうしてもドーキンス達の進化論に対する批評が過激というか、悪口、罵倒の類になってしまうという著者の欠点（そこが面白いからというので本が売れるということもあるが）が、社会批評や環境問題批評にも出てしまうところがあり、環境学の問題などでは著者の主張の科学的根拠が示されていないことが批判の対象にもなっているようだ。（但し、著者は全く気にしていないが）

3.11以前は原発容認派で原発批判派を「アホだ、チョンだ」と言っていたのが、突如、原発批判派に豹変し、その豹変ぶりを批判されると「自分の意見を変えない奴はアホだ」と堂々と叫んだという、余り信用できない方でもあるだけに、本書の主張も、中々面白いし、正しいところもあるとは思うものの、「どれも、どこかで聞いたような話ばかりで、パクリっぽいなぁ〜」と思ってしまった。

やはり、あまり信用して読む気にはなれない一冊だった。