ディズニーの隣の風景　　　　円堂都司昭　　　　　原書房　

だれもが、「浦安」ときけば山本周五郎の「あおべか物語」に描かれた貧しい漁師町をイメージしたのはもう随分昔の話で、今や「浦安」といえばやはりディズニーランド、そしてミッキーマウスを思い浮かべるのではないだろうか。

浦安在住のライターである著者は、嘗ての「あおべかの村」、そして昭和30年代には東京のごみ捨て場、あるいは工場廃液の流れる川の町というイメージがあった浦安が、一転して今や無国籍ともいえるミッキーの町となってきた変遷を通して、浦安ばかりではなく、急激に変わりゆく日本の都市の風景、社会を鋭敏に捉えた中々の快作である。

自分も浦安に住んでいるが、浦安は古くは漁師町であった「元町地区」そしてディズニー周辺の埋め立て地である「中町地区」、そしてそれより更に新しい埋め立て地で高層マンションが立ち並ぶ未来都市ともいえる「新町地区」に分かれている。

わずか十数万の人口しかない市であるにも係わらずそれぞれの地区住民同士の交流は少ない。確かに、釣り船の並ぶ運河のある元町からしばらく行くと、各家の垣根に西洋風のクリスマスオーナメントが輝いている中町に入ることになるが、その時に感じる違和感はなんとも不思議なものだ。浦安の住人なら必ず共感できるこの町の不思議さの分析は、さすがに浦安在住ライターならではと感心するほどに鋭いが、果たして浦安以外の住人はどう考えるのだろうかとも思うが、著者はこのようなコミュニティーの急激な変わり方、異質な住民の混ざり合いといった問題は浦安だけの問題ではないという。著者はこのような日本の風景の移り変わりは全国的に見られることだという。

確かに盆踊りが、ストリートダンスの群舞になり、どの町にもゆるキャラのマスコットぬいぐるみがいる。まさに、浦安の市民イベントにひっぱりだされたミッキーの姿は、なにも浦安だけのものではない！という分析をはじめ筆者の社会分析にはうならされるところがある。

新たな書き手として次回作以降も期待してよいのではないだろうか。