V.T.R.　　　　　辻村深月　　　　　　　　講談社　

中高校性（もしくは小中学生？）向けの、アニメや漫画風の表紙や挿絵を使った軽小説もしくはライトノベルといわれるジャンルがありそれなりに人気があるという。

アニメ王国といわれる日本で独自に発達した分野だともいわれているようだが、なあに、昔のスポーツや恋愛を主題にした「学園物」だとか、あるいはハーレークイーンロマンスなどの現代版だと考えれば「新しいジャンル」というほどではないとは思うが。

この作品は、辻村深月が彼女の創作した架空の作家、チヨダ・コーキ名で著わしたライトノベル、という中々手の込んだ虚構の上になりたった作品である。

すなわち、辻村深月の小説世界の中の作家チヨダ・コーキが書いた小説ながら、リアルな世界ですでに一定程度の愛読者を確保している「チヨダブランド」の作品ということになる。

チヨダ・コーキは高校二年生でデビューし、本作はその彼の処女作ということになっている。

漫画やアニメと同じように中高校性（中には大人も？）読んでいるライトノベルとはこういうものなのだということを知る意味では、まあ、話の種にはなるが、正直言って漫画や劇画は、最早、読む気力もない（読むと直ぐ飽きてしまう）60代にとっては、あまりにも場違いなところへきてしまったかのような居心地の悪さがあった。

ただし、辻村深月という30代の気鋭の作家が、10代の男子高校生作家になりきってこの虚構の作家にこういった現代のポップカルチャー的な物語を書かせているという、この作家の想像力の豊かさ、新しさにはおおいに感心させられた。

チヨダ・コーキ物はもういいけれど、辻村深月物は又、読んでみたいとは思った。