戦争と飢餓　　 　　リジー・コリンガム　　　 　　河出書房新社　　　

本編だけでも480頁、参考文献索引も含めると600頁にも及ぶ大著であり、驚くほどの力作といってよい一冊だ。

取り上げられているのは、第二次世界大戦における各国に於ける食糧供給、そしてその失敗（意図的なものを含めて）による餓死の問題だ。

戦争といえば、国と国、民族と民族間で戦われる総力戦である。戦闘ばかりではなく、その裏舞台を支える国民同士の食糧の奪い合いも戦争の重要な一部なのだ。

秀吉がもっとも得意とした戦法といわれる「水攻め」も、敵の糧食を絶ってしまうことによって、戦闘をすることなく勝利を収めるという戦法だが、第二次大戦においても、このような「敵の兵站を絶つ」「自らの兵站が尽きる」という形で勝敗が決した例は多いというか、ほとんど全ての戦いが、この食糧供給の問題（兵站の可否）によって決したといってもよい。

実際、第二次大戦時における軍人の死者数は1950万人だが、餓死者数は現在明らかになっているだけで2000万人に及ぶというから、戦争、特に近代の戦争は、国対国のお互いの「兵糧攻め」合戦のようなものと言っても過言ではない。

現代の日本人には想像することさえできないかもしれない「餓死」だが、同じ死ではあるものの、戦闘による死に比べても、「緩慢なる死」といわれる餓死の悲惨さ、残酷さは、際立っている。

本書にあげられている様々な餓死の例、次から次へと上げられる餓死の歴史的事実に、身の毛がよだつ思いにかられる。本書を読めば、戦争というものが戦勝国にとっても、敗戦国にとってもいかに悲惨なものであるのか、そして決してやってはいけないものなのだという思いに至らざるを得ないであろう。

ナチスドイツの作戦の基本が、実は意図的に敵国の農業産品の収奪に置かれていたこと、またその作戦がユダヤ人の大量虐殺を必然とせざるを得なかったこと等の残虐さに身震いし、日本軍の作戦にも「糧食は現地補給」（すなわち敵から奪う）という実に愚かで残虐な基本戦略があり、その結果として多くの兵力が戦闘ではなく、飢餓によって失われたこと等々、本書に詳しく述べられた、戦争という名の人間の愚行の数々とその結果の悲惨さ残酷さには、眩暈すら覚えるほどだ。

読後、どっと疲れることは請け合いながら、多くの人に一読をお勧めしたい一冊である。