大統領の陰謀　 　Ｂ･ボブウッド/C･パーンスタイン　   　文芸春秋　

世紀の超スクープ記事といえば、最終的に世界一の権力者、米国大統領を辞任に追い込んだワシントンポスト紙による一連のウォーターゲート事件報道にとどめを刺すのではないだろうか。

本書はその事件報道に当たったワシントンポスト紙の二人の若手記者による事件そのものと、いかにして事件の真相に迫ったかという二人の取材活動詳細の迫真ドキュメントである。

最初は単純なこそ泥によるビル不法侵入事件だと思われていた事件が、実はニクソン大統領執務室の直属機関によって巧妙に計画された、民主党本部盗聴事件であったという事実、そして事件をあらゆる権力を使って隠蔽しようとする大統領側との攻防など、サスペンスドラマ顔向けのスリルに満ちている。

もっとも、執拗に追い続ける二人の息詰まる活躍は、この事件が現実におこったノンフィクションであるからこそ尚更、驚異的な迫力で迫ってくる。

この一連の報道の重要な取材源には、後に名前も明らかになる「ディープスロート」という暗号名でよばれる内部通報者がいるのだが、この通報者との地下駐車場での接触場面や、厳しい追求に事実を隠しきれなくなって追い込まれていくニクソン側近達の狼狽・困惑ぶりなどは、当時の一連の公聴会などの映像記憶があるだけに、実に面白く感じた。

ニクソンの業績評価は必ずしも最悪という訳ではないが、やはり権力を使って政敵の追い落としをはかり、しかもその犯罪事実を権力をつかって隠蔽しようとした、というこの事件が与えた「巨悪」の印象が強烈であり、今もやはりニクソンといえば「悪人」のイメージが定着している。

又、世界でもっとも進んだ民主主義を標榜するアメリカでも、実は政治においては、このような不正義が堂々と行なわれているのだという事実がこの事件で明らかになったことで、以後、アメリカの政治やその民主主義の欺瞞性に人々が気付いたということは、この二人の報道が世界政治に与えた影響の大きさとして長く歴史に記録されることだろう。

（05年9月発行）