アルベルティ　　　　　アンソニー・グラフトン　　　　白水社　　　　

14世紀から16世紀にイタリアからはじまってヨーロッパ全土に拡大していったルネサンスは、「ルネサンス」が｢再生｣を意味することからもわかるように、古代ギリシャ・ローマ文化の再生運動という形をとることによって束縛の強い中世キリスト教的文化からの脱却、人間性の解放を目指した文化革新運動だ。

このルネサンスの背景には、商業資本の急激な興隆があったのだが、そのことによって人々は、宗教的束縛にとらわれない個性や合理性、現世的欲求の解放を目指しはじめた。

そのルネサンスの担い手として、もっとも理想とされたのは「万能の天才」であり、ダ・ヴィンチなどがその代表例といってよいが、本書が取り上げるアルベルティは、今は余り知られてはいないが、ルネサンス初期における代表的知識人、まさに「万能の天才」の典型といってよい。

本書は、その万能の天才にしてルネサンス運動の先駆者、そしてルネサンスの精神的基礎の構築者ともいえるアルベルティの事績を2段組400ページに亘って展開すると言う大著、労作だ。

アルベルティの活動は、「絵画論」あるいは「建築論」などが有名で彼の手がけた建築はいまもフィレンツェなマントヴァなどに多く残っているが、文学や哲学、美術論、あるいは家族論、都市論・社会論まで、実に幅広い。

本書では、それらのアルベルティの残した事績の全貌を実に詳細に描き出しており、アルベルティ研究の決定版的位置をしめているのではないかと思う。

研究書として書かれていることもあって、一般読者にはあまりにも詳細すぎて必ずしも面白い一冊とは言いがたいとは思うが。