イスラームとスーフィズム　　　東長靖　　　　名古屋大学出版会　　

トルコを訪れた時にコンヤにあるメヴレヴイ教団の霊廟を訪れたことがある。

このメヴレヴイ教団はスカートをはいた信者が音楽にあわせて、くるくると回転をして踊るという祈りの儀式で知られ「舞踏教団」ともいわれているが、イスラームの中の一派、スーフィズムの一派として知られている。

スーフィズムは「イスラーム神秘主義」と訳されることが多いが、ある面ではたしかにこの舞踏による祈りのように、神秘的というか、極めて精神性の強い一派といえるだろう。メヴレヴイはこの舞踏による祈りは、「回転は宇宙の運行であり、回転することで、信者は神との一体を図る」というのだから−−−。

一見「神秘的」(訳のわからない)とも見えるスーフィズムだが、研究家である著者は、これをむしろイスラームがもつ根源的教理に基づくものだという。

余りに細かく定められた人々の生活規範、法であるシャーリアの合理性を排し、神と人間との合一という宗教本来の目的に還るべきだという動きが、スーフィズムを生んだというのだ。

イスラームが往々にして宗教というよりは、「生活規範」であるといわれるのは、確かにこと細かく（いわば箸の上げ下ろしまで）定められたシャーリアが、宗教の精神的側面を打ち消してしまっているようにも見えるからだが、そういう意味ではスーフィズムは、「神と人間との関係」「神と人間との対話」といった精神性をより重視している点ではより宗教性が強い、ということができるかもしれない。（仏教にも現世利益や、死後の世界、といった側面を重んじる宗派に対する批判から、禅のような精神性を重んじる一派が出てきたのと、イスラムにおけるスーフィズムの位置はにているようにも思う）

そもそも、スーフィズムとはいかなる宗教哲学にもとづくものなのか、スーフィズムの歴史等々、正直言って余りイスラームに関心のない日本人にとっては中々興味のもてない主題にも思えたが、読み進む内にイスラームの宗教性といったものに対する理解はいささか深まったし、現代におけるイスラーム運動の本質についても、多少はわかったような気もしてきた。