相対主義の極北　　　　　入不二基義　　　　　　筑摩書房　　　

相対主義とは、「真偽や善悪などの基準は絶対的なものではなく、それを捉える個々の枠組みや観念に応じて変わる」という考え方である。

宇宙の無重力空間においては何が上であり、下であるかは、それを判断する人の立ち位置により変わってくるし、ある惑星の右側とか左側という言い方も、その「視点」という相対的な基準による−−−というのが「相対的な見方」ということになる。地球上ではこれが地球重力という基準によって上下が定められているに過ぎないという訳である。

この考えに基づけば、ある人にとっての真は、他の人にとっては偽でありうるし、この宇宙においては、真偽の基準はどこにもない―――という考え方も成り立ちうる。

本書では、この相対主義という哲学的命題について、古代ギリシャ哲学からルイス･キャロル、マクダガードそしてネーゲルまでの様々な論考を取り上げることによって解き明かそうという試みに加えて、著者自身の思索を豊富に織り込んだ意欲的な一冊である。

本書のタイトルである「極北」は、北の果てという意味と同時に「究極」という意味なのだが、「北」あるいは「究極」という言葉自身、なにかの基準があるからこそいえることを考えると、なんだか「相対主義」という著者の言葉と、矛盾するようにも思えるのだが―――

著者の論考は最終的には「相対主義を純化し蒸発させることによって我々個の絶対性を浮き彫りにする」という結論に導こうというものであることから「相対主義ということばと極北という概念は、矛盾しない」というなんとも難解な結論に到るという訳だ。

哲学者という人種の深遠な思索課程が、意外とわかりやすい言葉で書かれている―――と言う意味では、哲学とあまり縁のない我々にも多少は親しみ易い一冊ともいえる。