人類哲学序説　　　　　梅原猛　　　　　岩波書店　　

今年87歳になるという著者の哲学、仏教学、そして日本の古来の文学、宗教、歴史などの幅広い碩学振りは、彼をして日本の「知の巨人」とすらいわしめるものがあるが、本書では87歳という年齢にもかかわらず、又新たに「人類哲学」という新しいジャンルを切り拓こうという意欲を示しているというのだから、梅原猛は、知の巨人であるというよりも、なんだか知の怪物といった方が相応しいようにも思える。

本書は、その新たな「人類哲学」を展開するに当たっての「序説」だという。

著者が若き日々に研究し、のめり込んだギリシャ哲学そしてユダヤ文明を起源とする西洋哲学、中でもデカルト、ニーチェ、ハイデッガーのエッセンスを簡潔に語ることからはじめ、「人間中心思想」を根本に持つこの西洋哲学的思考が、自然破壊、人間性の喪失に、繋がっているという反省から、著者はこれからの人類が求めるべき思想は、天台本覚思想｢草木国土悉皆成仏｣という人間のみならず草や木、そして国土でさえ仏性をもっており成仏できるという自然中心主義であると説く。

さらには、宮沢賢治が傾倒した法華経が説く他利と、浄土教が唱える自利のバランスを求める思想こそが、行き詰まりつつある西洋文明的思考に代わる人類の生きる指針になると説く。

序説のスケールの大きさからみて、著者がこれから展開しようとしている「人類哲学」のスケールは相当大きな物になるだろうと想像されるが、健康に留意されて、是非、この大事業を完成していただきたいものだと思う。