栄養学を拓いた巨人たち　　　　杉晴夫　　　　　講談社　　

ビタミンBの不足が脚気の原因であり、ビタミンC、ビタミンDの欠乏は、それぞれ壊血病、くる病の原因である、といったビタミンの基礎知識はいまなら小学生でも知っているけれど、これらが発見されたのはこの精々100年のことであると知って、いまさらながらちょっと驚いた。

現代人がこの百年余りの間に飛躍的にその平均寿命を伸ばし、健康的な生活が送れるようになったのも、こういった栄養素の発見や代謝のシステムについての栄養学者、生化学者達の努力の賜物である。

本書では、そういったビタミンやミネラルの働きの解明、そしてそれらの物質の化学的同定と、三大栄養素が生体の中でどのようなメカニズムで代謝機能を果たしているかの研究に尽くした人々の戦いの記録である。

著者の筆力は、こういった地味な研究合戦の歴史を、豊富なエピソードを交えてドラマチックにしかも壮大なスケールで描いており、読者を飽きさせない。

栄養学に限らないのだろうが、こういった科学研究の先人競争は、実にスリリングであり、時には、研究者達の人間性丸出しの戦いであったり、個人的なスキャンダルであったりとエピソードにも事欠かないだけに実に面白い。

又、大戦後、飢餓状況にあった日本の子供達に対して為すすべなくというか、むしろ意図的に無策をくり返した日本人当局者達を、叱咤しつつ、人道的見地から食糧援助の手をさしのべた、当時の米国駐留軍の面々の奮闘などは、今や、日本人が忘れ去った事実ではあるが、こういったストーリーも、栄養学がいかに人間にとって有益で必要な学問であるかを教えてくれる。