酔いがさめたら、うちに帰ろう　　　鴨志田穣　　　　講談社　

いままでに何人かのアルコール依存症の人を見てきたが（残念ながら皆さんやはり肝臓病などで今はもういない）、酒というものの恐ろしさに酒が嫌いではないだけにぞっとした思いにかられたものだ。

依存症になってしまうと例えそれまで何年もの断酒をしてきたといっても、例え一杯の酒を飲んだだけでその症状が再発、倒れるまで酒を飲み続けるという病だ。アルコール依存症は「病」であるとされてはいるものの、かつて「アル中」とよばれたことからも、「意思の弱い酒飲みが勝手に陥る中毒」といった意識が世間一般にはあり、医師でさえからも同情されることの少ない病である。

体がボロボロになっても飲み続ける依存症患者の苦しみはいかばかりかとも思うが、又そういう世間からも見放されがちな患者をかかえた、その肉親（親や妻、子といった）の苦しみは癌などの病以上に過酷なものであろう。

著者はあとがきの最後に「この物語はフィクションです」と書いているが、あきらかに著者自身の依存症体験を描いたものである。戦場カメラマンという職業からくる重圧という問題もあったのだろうが、著者は依存症になり倒れて救急で運ばれ入院すること10回、医者にも「良く生きていますね」といわれるほどに内蔵はボロボロになっているのに、又飲んでしまうという生活の繰り返しの果てに妻とは離婚、二人の子供とも離れ離れの生活になったところで、アルコール依存症治療のために閉鎖精神病院に入院する。

本書は、そんな著者の依存症の日々、そして閉鎖病棟における依存症仲間との日々、入院中に癌が発見され余命1年という診断を受けて、元妻と子供達との生活に戻るために退院するその日までを描いた1冊だ。

依存症患者たちの突拍子もない行動や言動を描いた依存症閉鎖病棟内での日々の描写は、この病気の悲惨さをいかんなくあらわしているが、著者は、それをどちらかというと軽い筆致で淡々と描いている。これも、多分、著者がジャーナリストであったことと関係があるのかもしれない。

依存症から立ち直りを決意し、家族の下へ帰って行こうとするその場面で終わっている本書だが、著者がこの一年後には癌で亡くなっていることを知ると、ここまで悲惨な状況の自分を冷静に見ることができる著者が、どうにも逃れようのないような症状に陥ってしまうアルコール依存症という病の恐さがひしひしと迫ってくる。

「酒はそこそこに」ということだろう。